「同姓維持の通称使用法制化」激増 内閣府世論調査(令和4年3月公表)

「選択的夫婦別姓に賛成」は3割以下に激減 

内閣府は3月25日、平成29年(2017)年末に続いて4年ぶりに実施した「家族の法制に関する世論調査」の結果を公表しました。

 その中の「夫婦の名字・姓」に関する調査では、
1.「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」( 27% )
2.「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」( 42.2% )
3.「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」( 28.9% )
という結果が出ました。

 こうした世論調査は平成8(1996)年からほぼ5年ごとに行われており、今回で6回目。前回までの選択肢の表現がわかりにくいとの指摘を受けて、これを担当する法務省がシンプルな表現の選択肢に変えました。

「家族の法制に関する世論調査」(内閣府) (https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-kazoku/index.html)を加工して作成

 今回の世論調査を4年前の前回と比較すると、選択的夫婦別姓導入の賛成は42.5%から28.9%に激減し、同姓を維持した上で通称使用を法制化することに賛成した人は24.4%から42.2%へと大幅に増加しました。また、1と2を合わせた「夫婦同姓維持」は53.7%から69.2%に増加し、全体の7割を占めました。

 これららの変化は、選択肢の表現がわかりやすくなったことで、民意がよりストレートに反映したことに加え、このところの議論の影響で、選択的夫婦別姓の問題点が浮き彫りになって、民意が変化したことも影響していると思われます。

 選択的夫婦別姓制度の導入をめざす団体などは、これまでの世論調査結果を元に自らの正当性を主張して来ましたが、その最大の根拠を失うことになりました。また、当研究会は、地方議会の意見書の中に、「同姓維持を前提とした通称使用の法制化」に賛成する人を、「選択的夫婦別姓導入に賛成・容認」に組み入れたデータ“改ざん”があることについて、その不当性を指摘して来ましたが、選択肢がわかりやすく示されたことで、そのことがより一層明確になりました。

野田聖子氏の横ヤリに古川法務大臣が反論

 野田聖子・女性活躍担当大臣は、今回の世論調査の選択肢に「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」との選択肢があることについて、「どんな法律かが誰にも想像つかず、非常にわかりにくい」と批判したことが一部のマスコミで報じられました。

しかし、今回の選択肢は、これまでの「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名 字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓) を通称としてどこでも使えるように法律を改めてもかまわない」という長く回りくどい設問を、わかりやすくシンプルにしたものであり、「どちらがわかりにくいか」は両者を読み比べてみれば誰にでもわかることです。 野田氏は以前から自他ともに認める夫婦別姓派の中心人物であり、「同姓を維持した上での通称使法制化」を指示する国民の割合が大幅に増えたことが気にくわないだけであり、その批判は少しも説得力がありません。

 なお、今回の世論調査の設問は法務省が担当したのですが、報道によると、昨秋(令和3年)、事前に設問を読んだ野田氏は、法務省がこれまで正式な議論の俎上に載せたことがない方策だと問題視。法務省幹部を呼んで1時間にわたって「これではきちんとした統計が取れない」などと修正を迫りましたが、法務省側は『自分たちの責任でやります』とこれを押し切ったというのです。法務省の対応は当然のことであり、内閣府特命担当大臣である野田氏が、責任者である法務大臣を差し置いて世論調査の設問を変えさせるなどいうことは、あってはならないことです。 

 さすがの古川禎久法務大臣も腹に据えかねたのか、「今回の調査結果の分析評価については、さまざまな立場や観点から行われるものと考えているが、設問などにはまったく問題がないと考えている」と反論しています。

引用:内閣府令和3年度  家族の法制に関する世論調査 調査票

「回答者の半数近くを占める60代以上の慎重論が影響した」のウソ

 また、今回の世論調査についてマスコミの一部は「回答者の半数近くを60代以上が占めている」などと強調し、野田大臣も「これから結婚する世代を中心に新しい法制度を求める声が高まっている」などコメントしました。しかし、これは具体的な数字を示さないで、あたかも高齢者が多いことで「偏った結果」が出たかのように思わせる、いわゆる印象操作にすぎません。

 今回の回答者(男女)2884人に占める60歳以上の回答者は1302人で全体の約45.1%です。これに対し、4年前の平成29年度(2017年度)の回答者は2952人で、60歳以上は45.5%なのです。今回の方が高齢者の割合はむしろ少ないくらいなのです。それでも、毎日新聞は小さな記事ながら「選択的夫婦別姓制度導入派が28.9%」にとどまったことについて、「回答者の半数近くを占める60代以上の慎重論が影響した」とまで書いているのです。

 回答者の中の60代以上の割合が前回と同じであることを考えれば、この毎日の記事は明らかなミスリードと言うべきです。

 選択的夫婦別姓導入を主張する人たちの中には「これから結婚する若者の考えを優先すべき」という意見がありますが、これは「選択的だから反対する理由がない」という考え方と同様に大きな問題を抱えています。選択的夫婦別姓制度は全世代に影響してくるからです。これまで旧民主党などから出された法案では、既に結婚した人についても施行から一定期間、年齢に関係なく同姓から別姓への変更を認めるとしています。結果的に既婚者の全男女が「同姓か別姓か」の“選択”を迫られることになるのです。また、選択的夫婦別姓を導入すると戸籍の編成(作り方)自体を変えなくてはなりませんから、誰にとっても他人事ではなくなるのです。

 新しい世論調査が公表されて間もなく、TOKYO MXの朝の報道・情報番組「堀潤モーニングFLAG」で、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん(23)が興味深い指摘をしています。大空さんは「結婚している人よりも、していない人の方がより当事者性があるが、高齢者に考える権利、答える権利がないかと言えば、それも違う」と述べています。そして「60歳以上の方々も自分の子どもや孫の世代のことを考えている。特にこれは政府統計なので、世代間のバランスはしっかりと保つべきである」と発言しています。

 なお、今回の世論調査では、選択的夫婦別姓制度導入に賛成する人は若い世代の方が多いのは確かですが、すべての世代を通じて最も多いのは「同姓維持前提の通称使用法制化」に賛成する人なのです。このうち、18歳~29歳でも43.7%がそう答えており、現在の制度のままでよいとする人を加えると、同姓維持に賛成する人は59.8%となり、選択的夫婦別姓賛成の39.9%よりはるかに多いのです。

「夫婦別姓が子どもに影響ある」が62%から69%に増加

 選択的夫婦別姓制度が導入されると、夫婦だけではなく、その子どもも、どちらかの親と別姓になります。このため、世論調査では毎回、夫婦別姓による子どもへの影響の有無について訊いています。

 今回は「子どもにとって好ましくない影響があると思う」と答えた人は69%にのぼり、前回4年前の平成29年12月調査の62.6%に比べ1割強も増えています。とりわけ、18歳~29歳の67.2%、30歳代の68.5%が「好ましくない影響がある」と答えており、40歳代や50歳代よりも、わずかですが多くなっています。

 また、世論調査では、夫婦別姓による「家族の一体感やきずな」への影響についても訊いています。4年前には31.5%が「一体感(きずな)が弱まると思う」と答えましたが、今回は37.8%に大幅に増えています。

注目すべき「通称使用の拡大」等を求める神戸市会意見書

 神戸市会(市議会)は、内閣府の新しい世論調査の結果が公表された3日後の3月28日、「旧姓の通称使用の拡大やその周知など第5次男女共同参画基本計画に沿った政策推進を求める意見書」を、共産党など一部を除く保革の賛成多数で可決して注目されています。

 令和2年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画は「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方」について
①戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえる
②家族の一体感、子供への影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮する
③婚姻で改姓した人が不便さや不利益を感じることのないよう旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組む

ーーの3点を挙げ政府の男女共同参画基本計画に沿った政策の推進を求めています。

 今回の世論調査で「夫婦同姓維持を前提とした旧姓の通称使用」が大幅に増え、選択的夫婦別姓導入への賛成を大きく上回ったことで、全国の自治体で神戸市会と同様の意見書可決の動きが出ています。

*神戸市会意見書全文

旧姓の通称使用の拡大やその周知など第5次男女共同 参画基本計画に沿った政策推進を求める意見書

令 和 2 年 12月 に 閣 議 決 定 さ れ た 第 5 次 男 女 共 同 参 画 基 本 計 画 に 、「 夫 婦 の 氏に関する具体的な制度の在り方に関し、戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、また家族の一体感、子供への影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮し(中略)更なる検討を進める」こと及び「婚姻により改姓した人が不便さや不利益を感じることのないよう、引き続き旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組む」ことが明記されました。

現在、婚姻に際して、女性が姓を改める例が圧倒的多数です。そのため、旧姓 の使用範囲を拡大する法制上の整備を進めることにより、女性の社会進出に伴う 不都合を解消し、旧姓を使用しやすい環境作りを促進することが必要です。

よって、国におかれては、現状に合った旧姓の通称使用の拡大やその周知に取 り組むとともに、第5次男女共同参画基本計画に沿った政策を推進されるよう強く要望します。

以 上 、 地 方 自 治 法 第 99条 の 規 定 に よ り 意 見 書 を 提 出 し ま す 。

神戸市会 旧姓の通称使用の拡大やその周知など第5次男女共同 参画基本計画に沿った政策推進を求める意見書


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