全国の市・区議会から質問状に45通の回答

“改ざんデータ”掲載について説得力ある根拠を示せない各議会の回答

 政経情報研究会は、平成29(2017)年12月実施の内閣府世論調査「家族の法制に関する世論調査」のデータを、選択的夫婦別姓派が自分たちに都合よく“改ざん”した数字を「意見書」に掲載した地方議会について、その根拠などを明らかにするよう求める公開質問状を送りました。(参照:当サイト「新着記事一覧」の「選択的夫婦別姓を求める地方議会「意見書」の“改ざん”を告発する」)

 対象にしたのは令和元年(2019年4月~)から令和3(2021)年末までに問題の意見書を可決した98の市議会(市会)・区議会(東京都特別区)。回答期限の4月8日までに、郵送とメールで43の議会から回答がありました。質問状に回答していただいた各議会・議長の皆さまに敬意を表したいと思います。

 ただ、「(同姓維持を前提とした)旧姓の通称使用を法制化する」としか読めない選択肢を選んだ人(割合)を加えて、『選択的夫婦別姓制度の導入に賛成・容認は66.9%』と結論づけたことの正当性を論理的に説明し、誰をも納得させられるような内容になっている回答はありませんでした。それどころか、「公表されたデータを正確に引用している」「同様の方向性にある選択肢の回答を足した」というような荒っぽい回答もあって困惑せざるを得ませんでした。

 それでも、回答の中には、 [(世論調査の)データ解釈や表記が誤解を招いた」「指摘を真摯に受け止めたい」などと表明したものも少なくなかったことを付記しておきたいと思います。

 なお、回答しなかった議会は、私たちに限らず多くの国民から指摘されている疑問について、これを払拭する姿勢すら示さなかったということになります。自信をもって可決したはずの意見書ですから、外部からの疑義に“沈黙”することは、意見書の価値を自ら貶める結果につながるということを指摘しておきたいと思います。

「全会一致」の意見書 なぜ保守系議員は“データ改ざん”に抗しなかったのか

 もう少し付け加えたいことがあります。それは、多数決でなく、いわゆる全会一致で意見書を可決した議会の回答が、全体としておざなりな内容であることです(もちろん、何の回答もしなかった議会よりも誠意は感じ取れますが)。

 常識的に考えれば、これだけさまざまな議論がなされている問題なのに、ただの一人の反対もなく、「選択的夫婦別姓制度の法制化」を求める意見書が「全会一致」で可決されることなど、本来はあり得ないはずなのです。意見書の中の“改ざんデータ”の表現自体がほぼ同じであり、推進派の党派や団体が示した「フォーマット」に沿って意見書の案文が作られている実態を考えると、「他の議会でも同様の意見書が可決されている」という推進派の宣伝効果によって、個々の議員が立ち止まって考える余裕をなくしたとも言えるかもしれません。

 ただ、各議会の実情を調べてみると、個人的には“改ざんデータ”の件も含めて異なる意見を持つ議員がいる会派であっても、推進派の会派とのしがらみによって、「沈黙」を余儀なくされたケースが少なくないという実態があります。それでも、私たちとしては、たとえ一人であっても、完全と反対し、あるいは退席するなどの気骨を見せて欲しかったと思います。残念なのは、日頃は保守的な言動の議員でも、データが“改ざん”されているという認識すらなく、事の重大さに気づいていなかった議員が少なくなかったということです。

質問状が求めたのは「世論調査の公表数字にない『66.9%』の根拠」

 各議会から送られてきた「回答」に具体的に言及するにあたり、前回4年前の世論調査(平成 30年 2 月公表)の結果を、ここでもう一度、示しておきたいと思います。

(ア) 婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改 める必要はない(29.3%) 
(イ) 夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない(42.5%) 
(ウ) 夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によ って名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては かまわない(24.4%)

 私たちが問題にした意見書は、この結果を引用して次のように、加工していました。

①「夫婦同姓も夫婦別姓も選べる選択的夫婦別姓制度の導入に賛成・容認と答えた国民は 66.9%となり、反対の 29.3%を大きく上回った」 
②「選択的夫婦別姓制度の導入に『賛成・容認』と答 えた国民が、反対を大きく上回ったことが明らかになった」

 各議会はこれらの数字を最大の根拠にして「選択的夫婦別姓導入を求める意見書」「選択的夫婦別姓制度の法制化に関する議論を求める意見書」などのタイトルで政府や国会に提出したのです。実際の世論調査には、どこにも「66.9%」という数字はありませんので、その数字の根拠をしっかり説明する必要があるはずですが、意見書には上記のような「結論」が書いてあるだけです。意見書を読んで、世論調査に「66.9%」という数字が書いてあると勘違いした人もいたはずです。私たちが質問状で指摘したのは、まさにその一点です。加工して引用するのであれば、前提として最初に生のデータを示しておくべきですが、それさえもありませんでした。

静岡・伊豆市議会は外部の指摘に「議員運営委員会」で意見書再検討を協議

伊豆市役所

 各議会からの回答の中で、この問題への静岡県の伊豆市議会の対応は特筆すべきものでした。

 同市議会は令和3年9月に意見書を可決し、「夫婦同姓も夫婦別姓も選べ る選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に賛成または容認すると答えた国民は 66.9%であり、反対の 29.3%を大きく上回 ったことが明らかになりました」との文言を入れました。

 回答によりますと、可決から2ヶ月後に、私たちの質問状に先んじて外部から「(世論調査の結果の)解釈が誤っている」との指摘があり、同市議会は議会運営委員会で意見書を再検討。委員からは「こうした数字は根拠を捉え、調べてから出すべき」という意見もありましたが、最終的に意見書の訂正は行わなかったそうです。回答にはこうも記してありました。「貴殿が(公開質問状で)指摘する内閣府のアンケート結果(注・正確には世論調査)のデータ解釈と表記については誤解を招くものと確認はしております」。 私たちの質問状に先んじて、議会に勇気を持って問題を指摘した方、これに真摯に対応した伊豆市議会の姿勢は評価されるべきものでしょう。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/1-■ 伊豆市議会 3/3 メール-2.pdf

「疑念を持たれる内容を反省」など各議会から率直な反応も

 回答の中には、私たちの指摘を受けて、世論調査のデータを改変したことなどについて、「誤解」や「疑念」を与えたことを率直に認め、今後の議会審議に対して慎重に臨む姿勢を示すものも少なくありませんでした。

 例えば、愛知県の津島市議会は令和3年9月に「選択的夫婦別姓制度の法制化に向けた議論を求める意見書」を可決しましたが、その中には「夫婦同姓も夫婦別姓も選べる選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に賛成または容認すると答えた国民は 66.9%であり、反対の 29.3%を大きく上回ったことが明らかになった」とありました。そのことについて、同市議会は、私たちの質問状に対して、議長名で意見書自体は正当であるとしながらも、「本意見書において、疑念を持たれるような内容になったことに関しては、反省するところであります」と記しました。さらに、「今後は、このようなことが無いよう文面の作成を心掛けて参ります」と締めくくっています。津島市議会の皆さんには、たとえ私たちと意見は異なっていても、こうした勇気あるコメントを議長名で臆することなく出していただいたことに敬意を表したいと思います。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/38-■ 津島市議会 4/8 メール.pdf

 また、議長名で回答した千葉県の市川市議会は、「今後につきましては、皆様に誤解を生じさせることがないよう、意見書の作成においては更なる配慮を尽くしてまいります」との考えを付記。同県の佐倉市議会も、同じく議長名の回答で「今回ご指摘いただいた内容については真摯に受け止め、今後の審議においては、採択することの重みを再認識し、より慎重な審議に努めてまいりたいと考えております」との考えを示しました。さらに、同じ千葉県の松戸市議会は議長名で「今後は、ご指摘のような疑義が生じないよう、文面作成においては慎重を期して参りたいと存じます」との意見を付しています。一方、東京都内でも、町田市議会は回答の最後に議長名で「意見書の内容につきましては、今まで以上に十分注意してまいります」と記しています。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/30-■ 市川市議会 4/5 郵送.pdf
(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/16-■ 佐倉市議会 3/31 郵送.pdf

小金井市議会は意見書の賛成派と反対派から“回答”

小金井市役所

 小金井市議会は令和3年9月、「選択的夫婦別姓制度の法制化に向けた議論を求める意見書」を賛成多数で可決しました。その意見書には「夫婦同姓も夫婦別姓も選べる選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に賛成又は容認すると答えた国民は 66.9%であり、反対の 29.3%を大きく上回っ たことが明らかになった」と記されています。

 これについての公開質問状に対し、小金井市議会からは、意見書に賛成した各会派と意見書に反対した会派から2つの「意見」が“回答”として寄せられ、意見書に賛成した会派による連名の意見には「(通称使用の法制化に賛成する)選択肢について、「『賛成又は容認すると答えた国民は 66.9%』は誤りであるとは考えていない。容認とおおむね読み取れると判断しており、根拠としている公表データを正確に引用している」旨が示されていました。

 一方、意見書に反対した会派からは、「(通称使用の法制化を認める選択肢は)夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきだという前提に立っているので、賛成でも容認でもない。 あえて二つに分けるのであれば、『夫婦同姓維持が53.7%、選択的夫婦別姓導入が42.55%』とすべき」との意見が記されてました。

 私たちのスタンスは後者に近いのですが、可決した多数派の見解だけが議会の総意として回答に記されているケースが多い中、小金井市議会の対応は賛成と反対の双方の立場からの意見を公平に“回答”として寄せており、他の議会も見習うべきものと考えます。

(回答1) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/37・1■ 小金井市議会 4/8 賛成会派メール.pdf
(回答2) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/37・2■ 小金井市議会 4/8 反対会派メール.pdf

「賛成・容認66.9%は『共通の方向性』を持つ選択肢の合計⁉

 回答の中には、前記(ウ)は(イ)の選択的夫婦別姓制度導入の法制化と「共通の方向性を持っている」から、「選択的夫婦別姓制度の導入に賛成・容認」に加えたとするものがありました。「共通の方向性」とは、「現在の夫婦同姓制度の不便・不利益を法改正によって解消」しようとすることだというのです。

 この理屈は、稚拙なトリックです。確かに「現在の制度の不便・不利益を解消」するということだけに限れば、同じ方向を向いているかもしれません。しかし、(ウ)は、「婚姻前の姓(旧姓)を通称としてどこでも使えるようにする」ということであって、戸籍上の本来の姓があって、これとは別に旧姓を「通称」として使うということです。ですから、選択的夫婦別姓とはまったく異なるのですが、その部分の説明を意図的に避けています。こんな理屈がまかり通るなら、世論調査のデータは、好き勝手に解釈できるということになってしまいます。

根拠を示さず「前会一致で可決したので文言も総意」という“珍回答”

 東京・新宿区議会は4月1日付けのメールで、議長名による次のような回答を寄せました。「意見書は、全議員が意見書の内容に賛成し、全会一致で可決したものです。従いまして、当意見書内にある文言についても、議会の総意であります」

 同区議会は意見書で「夫婦同姓も夫婦別姓も選べる選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に賛成または容認すると答えた国民は66.9%であり、反対の 29.3%を大きく上回ったことが明らかになりました」と世論調査の結果を加工して引用しており、私たちの質問状は、他議会への質問状と同様に「66.9%」とした理由や根拠を尋ねたものです。

 議長名の回答をいただいたことには敬意を表しますが、その根拠が「議会の総意」では話になりません。せめて、何かしら根拠となるものを示して欲しかったと思います。全会一致の意見書は、多数派による事前の根回しが徹底していなければ不可能です。それだけに、「いまさら、根拠と言われても」ということなのでしょうか。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/21-■ 新宿区議会 4/1 郵送.pdf

(世論調査の目的は)選択肢を広げる法改正という苦しい言い訳

 東京・江戸川区議会は令和3年10月、「選択的夫婦別姓制度の法制化に向けた議論を求める意見書」を全会一致で可決し、その中に「夫婦同姓も夫婦別姓も選べ る選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に賛成または容認すると答えた国民は 66.9%であり、反対の 29.3%を大きく上回 ったことが明らかになりました」と書いています。

 その江戸川区議会は議長名で、前記世論調査の選択肢(ア)(イ)(ウ)について、「選択的夫婦別姓制度に対する是非ではなく、「選択肢を広げる法改正を行うことについての質問」だと独自の解釈を示しています。ですから、「通称名をどこでも使える法改姓」を求める人たちは、「法改正をすることにより、何らかの形で容認してもよい」との意見を持っていると判断したというのです。「選択肢を広げる法改正の是非」を問うことが目的なら、選択肢は別の表現になっていたはずですから、どう考えてもこの解釈には無理があります。

 また、私たちへの回答には「(意見書は)一律に法改正により容認すべしということではない」と記しています。これもおかしな理屈です。現に意見書の表題には「選択的夫婦別姓制度の法制化に向けた議論」と書いてあるのです。「議論」という言葉を使うことによって、全体のトーンを弱めたつもりでしょうが、国会で議論しない法制化などあり得ません。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/15-■ 江戸川区議会 3/31 メール.pdf

法務省の「特定の立場に立たない」を逆手にした選択的夫婦別姓派

 回答の中には、「家族の法制に関する世論調査」を主管する法務省民事局が、選択肢の(ウ)について「いずれの立場が正しく、他方が誤っているなどの見解を有するものではない」などとしていることを捉え、「選択的夫婦別姓制度導入に賛成・容認が66.9%」を正当化しているケースもあります。

 しかし、法務省民事局の担当者は「『何が正しくて、何が間違っている』と評価する立場になく、『これは正しい』という前提があっての世論調査ではない」と明言しており、決して「賛成・容認が66.9%」にお墨付きを与えたものではありません。

 そのことを理解していないために、地方議会の議員の方々が、選択的別姓推進派の団体や党派による呼びかけによって何のためらいもなく「賛成・容認が66.9%」という表現を受け入れてしまったという側面もあるように思います。 

「とにかく数で注目を集める」を掲げた陳情アクションが支える意見書

 岩手県の北上市議会の回答に「『選択的夫婦別姓・陳情アクション』の情報も参考にした」との表現がありました。そのこと自体を批判するつもりは毛頭ありませんが、なぜか、その当事者である陳情アクション自身は、自らのホームページでは「選択的夫婦別姓導入に賛成・容認が66.9%」という表現を全面には出していません。

(回答) https://shiitani.net/wp-content/uploads/2022/04/25-■ 北上市議会 4/4 メール-1.pdf

 その陳情アクションはサイト上で、議会への陳情から可決までの手順を懇切丁寧に書いています。「スタンダードコース」では、具体的なステップとして「陳情を出す議会の『会派の構成』をチェック!」、「議員に対面で相談」、「付託される委員会が決まったら『補足説明』」、「委員会で可決→本会議で可決→国会に意見書が届きます!」と案内しています。そして、運動に参加する人たちに向けて「あなたの声を、地域から国政に届ける!」「とにかく『数』で注目を集める!」「投票すべき議員さんを見極める!」という3つの目標を示しています。

 

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